剥離検査器の測定原理・特徴 Measuring Principle - Delamination Detector
剥離検査器の測定原理・特徴
剥離検査器は、複合材・積層材などの剥離・層割れといった欠陥を、機械インピーダンス解析(MIA)という方式で検出する探傷器です。
材料内部の欠陥検出に最も幅広く使用されている非破壊検査手法の一つとして超音波探傷があり、一般的には超音波探傷器の方が汎用性や測定精度に優れていますが、特定の用途においては剥離検査器の方が遥かに効率的に検査を行うことができます。
ここでは、剥離検査器の特徴と測定原理について、詳しく説明します。
特徴
剥離検査器と超音波探傷器は、いずれもプローブ内部の圧電素子によって材料に音波振動を加えますが、きずを検出する原理は異なります。
超音波探傷は、その名の通り人の耳には聞こえない超音波を利用し、きずに反射して戻ってきた超音波エコーの伝播時間と大きさ(振幅)からきずを検出、評価します。これに対し剥離検査器は、可聴周波数の励振力を材料に加えたときに、健全部と欠陥部で振動の特性(振幅と位相)に差異が生じることに基づき、比較測定で欠陥を検出します。
一般的に、超音波探傷器の方が深い位置のきずまで検出でき、また深さも含めたきずの位置や大きさ、形状をより正確に評価することができます。一方で剥離検査器は、浅い位置の欠陥を対象とし、試験体表面上で二次元的に、内部欠陥の位置や大まかな範囲を素早く特定するのに適しています。超音波探傷器と異なりカプラント(接触媒質)を塗布する必要がなく、また資格や熟練も不要という大きなメリットがあるため、超音波探傷器より圧倒的に早く簡単に、初心者でも検査を行うことが可能です。
目的や段階に応じて、剥離検査器と超音波探傷器を使い分けることで、より効率的に検査を行うことができます。
探傷器の種類 | 剥離検査器 | 超音波探傷器 |
---|---|---|
カプラント(接触媒質) | 不要 | 必要 |
調整用試験片 | 不要(試験体で調整) | 必要 |
資格 | 不要 | 必要 |
熟練 | 不要 | 必要 |
検査所要時間 | 短時間 | 長時間 |
欠陥の平面位置 | 〇 | 〇 |
欠陥の深さ位置 | × | 〇 |
欠陥の大きさ(端部位置) | △ | 〇 |
機械インピーダンスとは
ここでは、剥離検査器の測定原理において最も重要な『機械インピーダンス』について、詳しく説明します。
まず『インピーダンス』とは、「妨げる、邪魔をする」という意味の英単語"impede"を語源とする概念で、電気、音、振動など幅広い分野に適用することができます。あるものに力を掛けたときの、「加えた力」とその結果発生する「変化量」の比として定義され、要するにインピーダンスはその「変化のしにくさ」を表します。
インピーダンス = 加えた力 / 変化量
初めにインピーダンスの概念が導入されたのは電気工学の分野で、一般的には交流電気回路の特性計算に使用する物理量として広く知られています。電気的インピーダンスZは、交流回路の両端にかかる電圧Eと、それによって流れる電流Iの比で求められ、電流の流れにくさ、つまり抵抗を表します。
電気インピーダンスZ = 電圧E / 電流I
電気系と機械系の間には相似則が成り立つため、機械系についても、インピーダンスの概念を有効に適用することができます。具体的には、物質の振動に関する機械振動系において、振動試験の評価指標として『機械インピーダンス』が利用されています。
対象物に周期的な励振力Fを加えたときに、その応答として振動速度Vが発生した場合、機械インピーダンスZは以下のように定義されます。
機械インピーダンスZ = 励振力F / 振動速度V
機械インピーダンスは、物質に力を加えたときの「振動のしにくさ」を表します。周期的な力に対する物質の振動特性を定量化できるため、これまで人の感覚に依存してきた工程評価や工業製品の品質管理など、様々な分野へ適用することが可能です。
例えば、機械部品や構造物材料において、破損や摩耗といった欠陥を持つ部分と健全部では、機械インピーダンスに差異が生じます。従って、製造時の品質管理や保守検査で機械インピーダンスを測定することにより、欠陥部を簡単かつ確実に検出し、機械や構造物全体の安全性を格段に高めることができます。
測定原理
剥離検査器は、機械インピーダンス解析(MIA)という方式によって、複合材の剥離・層割れや金属同士の結合不良、材料の厚さ不均一部や内部空隙といった欠陥を検出します。この方式は、外部から試験箇所に一定の励振力を加えた際に、健全部と欠陥部で応答の振動特性が変化する、つまり機械インピーダンスの測定値に差異が生じることに基づき、比較測定で欠陥の有無を評価します。
プローブには圧電素子(励振用、受信用)が内蔵されています。励振用の圧電素子を固定の可聴周波数で振動させ、試験体に当てることによって弾性振動を励起します。試験箇所に生じた応答振動を受信用の圧電素子で受信し、振幅や位相、周波数を解析して機械インピーダンスを算出します。
予め健全部の機械インピーダンスを測定した上で、同等の特性を持つべき範囲全体を測定し、値の大きな変化を検出することで、欠陥部を特定することができます。超音波探傷のように欠陥の深さ位置は特定できず、基本的に試験体表面上の位置のみですが、可聴周波数の力を試験体に直接加えるため、カプラント(接触媒質)の塗布が不要です。
なお、超音波探触子に一振動子型と二振動子型があるように、剥離検査器のプローブにも、一つの圧電素子で励振と受信を行うものと、二つの圧電素子に分割されたものがあります。想定する欠陥の深さ位置や、試験体の曲率に応じて使い分けることで、より信頼性の高い検査を行うことができます。